発語がないお子さんの”YES/NO”を引き出す工夫

こんにちは。
保育・療育専門家のコノアス合同会社 代表 柏木です。

児童発達支援の現場でよく聞かれるのが、

保護者A

この子は嫌がっているのか、そうでないのか、よくわからない

保護者B

質問しても反応がなくて、どうしてあげたらいいのか…

というお声です。

発語がない、あるいはことばでのやり取りが難しいお子さんにとって、”YES/NO”を伝えられることは、生活の質を大きく左右する土台になります。
「いや」「うん」「これがいい」が伝わるだけで、お子さん自身も「自分の気持ちが尊重されている」と感じやすくなり、不安や混乱が減っていきます。

今回は、発語がないお子さんから”YES/NO”を引き出すための具体的な工夫をお伝えします。

目次

“YES/NO”を伝えられることの意味

“YES/NO”は、すべてのコミュニケーションの入口です。

  • 「やりたい/やりたくない」
  • 「食べたい/食べたくない」
  • 「いていい/やめてほしい」

この小さな選択が伝わるだけで、お子さんの一日は大きく変わります。

逆に、自分の意思が通じないまま過ごす時間が続くと、疲れやすくなったり、気持ちの切り替えが難しくなったりすることがあります。
急に大きな声が出てしまったり、場面の切り替えでつまずいてしまうような「情緒」の面での揺れも、その背景には「伝えたいのに伝わらない」という積み重ねが隠れていることが少なくありません。

“YES/NO”を引き出す関わりは、単なるスキルではなく、お子さんの安心感と自己肯定感を育てる関わりでもあります。

まずは「伝わる手段」を用意する

発語がないお子さんの場合、「口で答える」以外の伝える手段を、大人の側が先に用意しておくことが大切です。

1. 二者択一から始める

最初から自由に答えてもらおうとせず、まずは2つの選択肢を用意します。

  • おやつA/おやつB
  • 赤いブロック/青いブロック
  • 外で遊ぶ/お部屋で遊ぶ

「YESかNOか」よりも、「こっち?こっち?」のほうが答えやすいお子さんは多くいます。

2. 実物 → 写真 → イラスト → 文字 の順で

抽象的になるほど難しくなります。最初は実物を目の前に並べるのがおすすめです。
反応が安定してきたら、写真、イラスト、文字へと段階的にシフトします。

3. YES/NOカードをつくる

  • 丸(YES)/ばつ(NO)
  • 笑顔/困り顔
  • 「いい」/「いや」の文字+色分け

大事なのは、家庭と事業所で同じカードを使うこと。
支援者や場面によってルールが変わると、せっかく覚えたサインが使えなくなってしまいます。

“サイン”をこちらが読み取る

発語がなくても、お子さんは必ず何かしらのサインを出しています。

  • 視線の向き(見た/そらした)
  • 体の向き(近づいた/体を反らした)
  • 表情の変化(ほほ笑んだ/眉をひそめた)
  • 手や指のわずかな動き
  • 筋緊張の変化、呼吸のリズム

これらを支援者が言葉にして返すことで、やり取りが成立します。

今、こっちを見たね。これがいいんだね

体がふっと緩んだね。安心したのかな

返された言葉を通して、お子さんは「自分の動きには意味があるんだ」と気づいていきます。

“引き出す”ための関わりのコツ

① 待つ時間を長めにとる

質問してから反応が返ってくるまでに、10秒、20秒かかるお子さんもいます。
沈黙を埋めず、「待つ」ことも支援の一部です。

② 聞き方をシンプルに

「どうする?」より「食べる? 食べない?」のほうが答えやすいことが多いです。語尾を上げて、選択肢をはっきり区切って伝えます。

③ 「答えた結果」をすぐに反映する

NOと伝えたのに続けられてしまうと、「伝えても無駄なんだ」という学習につながってしまいます。

小さなNOこそ、できるだけ尊重します。

④ 成功体験を積み重ねる

最初は「好きなもの」対「興味のないもの」など、答えが明確に出やすい組み合わせから始めると、伝わった!の感覚が育ちやすくなります。

重度のお子さん・発語が難しいお子さんへの配慮

反応がとても小さく、見落とされやすいお子さんもいます。

  • まばたきの回数
  • 視線が一瞬とどまる方向
  • 口元のわずかな動き
  • 身体の向き

こうした微細なサインをYES/NOとして採用することで、コミュニケーションの扉が開くことがあります。
視線入力装置やスイッチ、コミュニケーションボードなどのAAC(拡大代替コミュニケーション)も、専門家と連携しながら取り入れると選択肢が広がります。

大切なのは、「反応がない=意思がない」ではなく、”まだこちらが読み取れていないだけ” と捉える姿勢です。

情緒面の揺れにも寄り添う

急な奇声、癇癪、場面の切り替えの難しさなど、外からは見えにくい「情緒」の揺れがあるお子さんにとって、“YES/NO”が伝わる安心感はとても大きな支えになります。

  • 次に何が起こるかが見えない
  • やめたいのにやめられない
  • 伝えたいのに届かない

こうした状況は、情緒の揺れの背景になりやすいため、YES/NOが通じる場面を少しずつ増やしていくことが、結果として癇癪や切り替えの難しさをやわらげることにもつながります。

家庭と事業所で共有したい視点

“YES/NO”の支援は、日常の中で積み重ねるものです。

  • 服、おやつ、遊びなど、家庭の中に選ぶ場面を少しだけ増やす
  • 事業所で使っているカードやサインを共有する
  • うまくいかなかった日は、「どの提示ならわかりやすかったか」を一緒にふり返る

完璧を目指さず、「今日はこの1回、伝わった」を大事にしていきます。

おわりに

発語がないお子さんの”YES/NO”は、とても静かで、見落とされやすいものです。
けれどそのサインの奥には、確かな気持ちがあります。

児童発達支援として私たちにできるのは、

  • サインを丁寧に読み取り
  • 伝える手段を用意し
  • 「伝わった」という経験を重ねていくこと。

一人ひとりのペースを大切に、これからも関わり続けていきます。

FAQ(よくあるご質問)

Q1. 質問してもまったく反応がありません。どうすればいいですか?

A. 反応が出るまでに時間がかかるお子さんもいます。まずは10〜20秒ほど待ってみて、それでも反応がなければ、選択肢を減らす、実物に変える、好きなもの同士にする、などの工夫を試してみてください。

Q2. いつも同じほう(例:いつもYES)ばかり答えます。

A. 安心できる答えを選んでいる場合があります。無理に変えず、「本当に好きなもの」対「興味が薄いもの」など、差が明確な選択肢から始め、少しずつ場面を増やしていきます。

Q3. カードやジェスチャーに頼ると、言葉が出なくなりませんか?

A. そのような心配はいりません。むしろ“伝わった”経験が増えることで、発語やコミュニケーション意欲が育ちやすくなると言われています。

Q4. 家で癇癪や奇声が増えています。関係ありますか?

A. 可能性はあります。「伝えたいのに伝わらない」状態が続くと、情緒が揺れやすくなります。YES/NOが通じる場面を日常に少し増やすことで、落ち着きやすくなるお子さんもいます。

Q5. 重度の障害があり、意思表示があるのかわかりません。

A. 視線、表情、呼吸、筋緊張など、とても小さな変化が意思表示であることがあります。支援者や専門職と一緒に、「この動きをYESにしよう」と決めて共有していくところから始めてみてください。

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