こんにちは。
保育・療育専門家のコノアス合同会社 代表 柏木です。
はじめに

土に触れる、種をまく、芽が出るのを待つ、収穫して食べる――。
一連の流れには、お子さんの「五感」「気持ち」「食」を育てる力がぎゅっと詰まっています。
当事業所では以前、区民農園をお借りして畑体験を行っていましたが、現在は抽選から外れてしまい、まとまった畑を確保することが難しい状況です。
そこで今は、各園ごとにプランターでの野菜づくりを続けています。限られたスペースでも、お子さんたちの「見つけた!」「できた!」がたくさん生まれる、豊かな活動になっています。
プランターで育てている野菜たち

当事業所で主に育てているのは、次の4つが主です。
- ミニトマト:色づく様子が分かりやすく、収穫の喜びを感じやすい
- おくら:花も実もユニーク。ねばねばの感触は触覚への良い刺激に
- ナス:つやのある紫色、ずっしりとした実の重みに驚きの声が
- きゅうり:成長スピードが速く、「昨日より大きい!」を毎日体験できる
どれも比較的育てやすく、成長のサイクルを身近に感じられる野菜たちです。 「水やり」「葉っぱの観察」「実を探す」など、毎日の活動に小さな目的が生まれます。
「土に触れる」体験が育てるもの

1. 感覚への心地よい刺激
土はざらざら・しっとり・ひんやり。葉はつるつる、おくらの実はちくちく……。
ひとつの活動の中に、多様な感触が同時に存在しています。
感覚過敏のあるお子さんも、「手袋越しに触る」「シャベルを使う」「直接触ってみる」と段階を踏めるので、無理なく感覚を広げていくことができます。
2. 「見通し」と「待つ力」
種をまいて、芽が出るまで待つ。実が大きくなるまで待つ。
畑仕事は目に見えない時間との付き合いでもあります。
場面の切り替えが苦手なお子さんにとって、「いつ収穫できるかな?」とカレンダーや写真で見通しを持てる活動は、安心と期待を同時に育ててくれます。
3. 食への興味と偏食支援
自分で育てた野菜は、不思議と「ちょっと食べてみようかな」という気持ちにつながります。
普段は野菜が苦手なお子さんも、「自分が水をあげたミニトマト」だと一口食べられた、ということがよくあります。
おやつ・クッキングへつなげる

収穫した野菜は、おやつでそのまま食べたり、簡単なクッキングで使ったりしています。
- ピザパン:食パンにケチャップを塗り、ミニトマトやおくらをトッピングして焼く
- 味噌汁の具:ナスやきゅうりを切って入れ、香りや食感の変化を楽しむ
- おやつタイム:もぎたてミニトマトをよく冷やして、そのままパクッ
クッキングは「ちぎる」「のせる」「混ぜる」など、包丁を使わずにできる工程が多く、手先の発達にもつながります。何より、自分の手で作ったものを食べる体験は、自己肯定感を大きく育ててくれます。
情緒の特性に寄り添う関わり方

急な奇声や癇癪、気持ちの切り替えの難しさといった「情緒」の特性は、多動などと違って外から見えにくいことが少なくありません。
畑やプランターでの活動は、その日のお子さんの状態に合わせて関わる強度を変えやすいのが特長です。
- 観察だけの日があってもいい
- ジョウロで水をあげるだけでもいい
- 「今日はやらない」を選んでもいい
選択肢があることそのものが、情緒の安定につながっていきます。
小学校に上がってから情緒面に応じた支援学級が必要になるお子さんもいますが、こうした選べる体験の積み重ねは、その後の集団参加の大切な土台になります。
発語が少ない・重度の障害があるお子さんへの工夫

- 手を添えて一緒に土に触れる:感触の共有が、言葉のないやりとりになります
- 写真カードで見通しを伝える:「水→観察→収穫」を絵で示す
- 触覚過敏が強い場合:園芸用手袋、スプーン、スコップ、ザルなど道具を介する
- 車いす利用のお子さん:プランターを台に乗せて高さを合わせる
- 収穫だけ参加:作業の全工程ではなく、好きな工程だけでもOK
「全員が同じ作業をする」のではなく、「それぞれのやり方で関わる」ことを大切にしています。
ご家庭で取り入れるヒント

特別な道具がなくても、ベランダや窓辺で十分に始められます。
- 小さな鉢ひとつから、ミニトマトや葉物野菜を育てる
- 「お水当番」をお子さんの役割にする
- 収穫した日は、夕食に一品加えてみる
- 観察日記の代わりに写真を撮りためる
FAQ(よくある質問)

- プランター栽培でも、畑と同じような効果はありますか?
-
規模は小さくても、五感への刺激や食育、待つ力を育む効果は十分に得られます。むしろ毎日近くで観察できる分、小さな変化に気づきやすいというメリットがあります。
- 土に触ることをとても嫌がります。無理に触らせるべきですか?
-
無理は禁物です。手袋やスコップを使うところから始め、徐々に直接触れる体験を増やしていきましょう。「見ているだけ」「水やりだけ」も立派な参加です。
- 発語のないお子さんは、どのように楽しんでいますか?
-
視線・表情・身体の動きで、たくさんの気持ちを表してくれます。一緒に土に手を入れる、収穫した野菜を持つ、においを嗅ぐ――言葉がなくても、確かな「共有」が生まれます。
- 重度の障害があるお子さんでも参加できますか?
-
はい。プランターの高さを調整したり、職員が手を添えて一緒に関わったりと、その子に合わせた形で参加できます。「いる・見る・感じる」も、大切な参加のかたちです。
- 収穫した野菜が苦手で食べられない場合はどうすれば?
-
食べることがゴールではありません。「触ってみる」「においを嗅ぐ」「お皿に乗せる」など、関わるだけでも食への一歩。クッキングや盛り付けに参加するうちに、少しずつ食べられる範囲が広がっていくこともあります。
おわりに

畑がなくても、プランターひとつから始められる食育と感覚あそび。
土を触ったときの手の表情、初めての収穫で上がる声、自分で作ったピザパンを頬張る笑顔。
そんな日々の小さな瞬間を、これからも一緒に育てていきたいと思います。
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